転がる奇跡の実、
代々家宝と渡されたその大切な木の実を追いかけた。

 下々の大陸の先、
広がる青空と大きな暗い陰のかかる草原、
木の実の導いたそこで、はじめて出会った。


「…だれ?…まるで、かがみをみているみたいだわ!」


 天空の人たる2種族、華人、蟲人とは異なる、その姿。
 代々王家として奉られる、陽に嫌われ陰にしか生きられない種族、カムイ。


「あれこそは、実が妾に授け給うた、奇跡であったのかも知れぬ」


 奉られる事の無かった、華とも蟲とも異なるそれらは、
陰に仕舞われ表には知られる事は無い筈だったのだから。

 奉られたものが、
眩い世界の先に隠された、その陰まで辿り着ける筈なかったのだから。


「妾の宝石魔法は、陽を封じる」
「封じた陽であれば、我等カムイも平気となる」
「妾だけならば、妾一人で事足りる」
「しかし妾は知ったのだ、カムイは妾一人で無いと」


 その娘は王となり、多くの者に力を借りた。

 自らの宝石魔法を、
陰しか生きられない彼等に、
陰と共に表に出られる術を、
王一人で無く、下々の民まで行き渡るように。


「妾は飾り物の王にすぎぬ」
「それであって妾は願うのだ」
「華も、蟲も、異も、なく」
「ただ天空の民であれ、と」



 その王は、慈しみを持った王だった。
 側仕えの華人も、衛兵の蟲人も、慕っていた。


「すまぬ、タランザよ、このような役割を押し付けてしまって」

「何を言うのねセクトニア、ワタシはこうしてまた貴女に会えて十分以上に嬉しい!」
「こんな素晴らしい実験に、はじめにワタシが選ばれて、とっても光栄なのね!」


 宝石魔法は、遂に王宮から陰までを繋いだ。

 その頃には、王は、華人と蟲人の形だけの友好の偶像ではなく、
天空の民にとっての架け橋となっていた。


 なっていたのだ。



「セクトニアの様子がおかしい?」


「そうなのです、タランザ」

「いつ頃からでしょう、
お部屋の家具や装飾だけでなく、王宮の物までを、
相応しくないから取り替える、
などとご乱心で…」

「手当たり次第に棄てられているのです、
代々王家に伝わる大事な物まで棄てようとなさって…」

「我ら華人は従わぬからと避けられ、取り分け忠実な蟲人のみが重宝され…」

「落ち着いてきたと思ったらお部屋に籠られてしまい…」

「クィン・セクトニアは変わられてしまったのでしょうか…」


「…そ、そんなハズ、ないのね…」



「…セクトニア」


「……」

「…ああ、ああ、タランザか、戻ったのだな、タランザ」


「…セクトニア」


「ああ、タランザ、訊いておくれ、妾の、願いを」


「…セクトニア?」


「妾を、正気ではないと、言うものが居る、妾も、妾が…」

「…お願いだ、タランザ、妾は…」

「…妾は願うのだ」




 彼にだけは、はじめて出会った時と、変わらぬ笑みを浮かべていた。

 彼にだけは、はじめて出会った時と、変わり果てたココロを見せたくなかった。




 空を仰ぐ大陸で、どこまでも陽向のその草原で、
その木の実は転がり出でた。


 まるで、立ち止まった彼を見つけに来たように。

 まるで、迷子になった彼を導きに来たように。

 彼女と彼が出会う奇跡を起こしたその木の実は―――。










道標の果実。

かつて奇跡に導かれ、鏡に歪んだ少女と、
歪みに取り残された少年が、再び奇跡に出会ったお話。


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小説、虹の島々を読んで降りてきて纏まった、タラセクの、昔と、ちょっと昔と、これからに立つお話。
ンザは一体どこまで地獄に居るんだ…